名古屋高等裁判所 昭和31年(う)354号 判決
「名古屋地方裁判所執行吏森守男代理深沢吉重は吉田一の債権者三浦義松の委任を受け、同裁判所豊橋支部昭和二十五年(ヨ)第二二号仮処分決定正本に基き、当時愛知県宝飯郡蒲郡町大字蒲郡字旧廓百二十三番地の吉田一方工場内において、綿織機七十五吋二台、同機十八吋五台、整経機一台、経緯管巻機二台、電動機五百馬力一台、その他右機械の附属品一切の物件について処分禁止の仮処分をなし、同工場内に公示書を貼付して仮処分の事実を標示したうえ、吉田一に右物件の保管を命じ、同人は右命によりこれを保管していたところ、被告人は吉田一と共謀のうえ、昭和二十五年八月中旬頃右物件を擅に同所から肩書被告人の住居に運搬し去り以て執行吏の施した差押の標示を無効ならしめたうえ、右物件を横領したものである。」
との公訴事実(原審へ差戻前の当審において検察官のした訴因、罰条の追加は相当であり、何ら違法ではない)に対し、右公訴事実に記載のとおり、執行吏代理が仮処分決定正本に基き吉田一方工場において機械類(但し管巻機は経管巻機、緯管巻機各一台)について処分禁止の仮処分をし、公示書を貼付のうえ、その保管を吉田一に命じ、同人はこれを保管していたこと及び被告人が執行吏に無断で右物件をその住居に運搬したことを証拠により認定したうえ、証拠によれば右公示書は仮処分後間もなく吉田一の長男吉田一夫により剥離、損壊され、その後被告人において右物件をその住居に運搬したものであるから、被告人の所為は封印破棄の罪を構成するものではなく、又吉田一の罪責はともかくとして、同人が執行吏から保管を命ぜられている状態が継続しているのに、これを破つて被告人に右物件を引き渡すという点につき被告人が認識していたことは検察官援用の全証拠によつても認め難く、且つ被告人は当初から自己の所有権を主張していた事実からしても被告人に横領の犯意があつたことの証明は不充分であるから、被告人の所為は横領罪をも構成しない旨判示して被告人に対し無罪を言い渡しているのである。
しかしながら、被告人の所為が封印破棄罪を構成しないとの点は疑問の余地はないにしても、今一件記録及び当審における事実取調の結果を仔細に検討調査すると、被告人は、前記物件が執行吏代理から処分禁止の仮処分をなされ、その命により吉田一がその工場内において保管しているものであること及び吉田一夫が右仮処分の公示書をその執行後間もなく執行吏に無断で剥離、損壊してしまつたことを知りながら、吉田一と意思を相通じ、共謀のうえ、擅に前記物件(但し電動機一台を除く)をその自宅に運搬したものであることを認めることができ、殊に被告人は搬出に当り吉田一から勝手に持ち出して法に触れないかといわれた際、自分のものを自分の処に持つて行くに何の不足があるものかと答えたことがうかがわれる。そして右のように一旦執行吏により適法に仮処分が執行され、その旨の標示がなされたうえ、吉田一にその保管が命ぜられた以上、(吉田一は執行の当時拘置所に勾留されており、右標示が剥離されて後出所帰宅したものであると認められるけれども、右執行及び同人に対する保管命令が有効に成立したものであるこというまでもなく、且つ同人は少くとも帰宅直後までには以上の事実関係を充分知つたものと認められる)その後間もなく前記のとおり吉田一夫が執行吏に無断で右標示を剥離損壊しても、仮処分及びこれに基く右保管命令の効力は依然として適法に存続するものと解するのが相当であるから、被告人が前記のとおり仮処分の執行を受け、吉田一が執行吏から保管を命ぜられた物件であることを知り乍ら、何ら適式に仮処分の執行を解除する方途を講ずることなく、同人と意思を相通じ共謀のうえ、擅に同人方の標示の個所からこれを自己のものであるとして被告人方の住居に搬出した所為は、仮にそれが真実被告人自身の所有物であつたにしても、横領罪を構成すること明らかであるといわなければならない。
して見ると、原判決が前記のとおり被告人に横領の犯意なしと認め、これに対し無罪の言渡をしたのは、畢竟判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認を犯したものと認める外ない。それ故論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十二条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により直ちに更に被告事件について判決することとする。
(犯罪事実)
名古屋地方裁判所執行吏森守男代理深沢吉重は吉田一の債権者三浦義松の委任を受け、前記公訴事実に記載の仮処分決定正本に基き昭和二十五年七月十二日当時同記載の吉田一方工場内において綿織機七十五吋二台、同機十八吋五台、整経機一台、経管巻機、緯管巻機各一台電動機五百馬力一台、その他右機械の附属品一式の物件について処分禁止の仮処分をなし、同工場内に公示書を貼付して仮処分の事実を標示したうえ、吉田一に右物件の保管を命じ、同人は右命によりこれを保管していたところ、被告人は吉田一と共謀のうえ、吉田の長男吉田一夫が仮執行後間もなく執行吏に無断で右標示を剥離損壊したことを知りながら、同年八月中旬頃前記物件(但し電動機を除く)を擅に右工場から被告人の肩書住居に運搬し去り、以てこれを横領したものである。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)